🌀「雨の都庁前に並ぶ700人」――就職氷河期世代が直面する“見えない貧困”の現実

🏙 雨の中で配布を待つ人々と“鈴木さん”の物語

2025年5月中旬の土曜日。新宿の都庁前には、横殴りの雨にもかかわらず、約700人の人々が並んでいた。目的はNPO法人などが主催する無料の食料配布会。会場にはビニール傘がひしめき合い、濡れた足元にじっと耐えながら、ひとりひとりが順番を待っていた。

その最後尾には、ビニール傘を手に足元を濡らしながらもじっと耐える、56歳の鈴木孝さん(仮名)の姿があった。

彼は都内に住む一人暮らし。数百円の電車賃すら捻出できず、配布会場まで4時間かけて徒歩でやってきたという。鈴木さんは、その道のりをこう振り返る。「途中で引き返そうかと思った。でも、家に帰っても何も食べるものがないから…」。

雨の中でただ並び、誰にも気づかれずに帰っていく――それが、就職氷河期世代の“現在地”を象徴しているように思えた。

📉 就職氷河期世代とは何だったのか?

就職氷河期世代とは、1990年代前半から2000年代前半に社会に出た世代を指す。バブル崩壊後の景気低迷期で、新卒採用が極端に冷え込んだこの時期、正社員になれずに非正規やアルバイトとして就労を始めた人が多い。

当時の雇用市場は企業側に極端に有利な“売り手市場”ではなく、求職者にとって厳しい“買い手市場”であった。企業は人員削減を進め、新卒採用を抑制し、結果として多くの若者が「働き口がない」という異常事態に直面した。

主な統計データ(2024年時点・厚労省など)

項目数値
推定対象人数約1700〜2000万人
非正規雇用率(当該世代内)約35〜40%
貯蓄ゼロ世帯率(50代)約3割以上
単身世帯率約30%
年収200万円未満約15%(全体平均の約2倍)

このような統計が示すのは、ただ「仕事がなかった」というだけでなく、「仕事があっても未来につながる選択肢が乏しかった」ことを意味している。

🧓 中年期を迎えた“失われた世代”のリアル

「とりあえずフリーターで生活をつなぐ」——20代のころは、そう言って前向きだったかもしれない。しかし30代になっても正社員への門は狭く、スキルもキャリアも積めないまま、気がつけば40代、50代。

就職氷河期世代は、正規雇用で働いてこなかったことで、年金額も極端に低く、社会保障の“下流層”に押し込まれやすい。結婚や子育てを諦めた人も多く、孤立しがちだ。

典型的なリスクとしては:

  • 就職できても、雇止めや解雇リスクが高い
  • 家族や親の介護で働けなくなるケース
  • うつ病や精神疾患の発症率が高い(非正規労働の不安定さとの関連)
  • 自己肯定感が極端に低く、支援を自ら求めにくい

こうした状況から、中高年のひきこもりや中年のホームレス化といった問題にもつながっている。

🤝 支援を担うNPO・民間団体の実態と課題

そうした行政の網の目をすり抜けてしまった人々を支えるのが、民間の支援団体やNPOの存在だ。

都庁前の配布を実施したのも、都内の複数のNPO団体が協力した取り組みだった。生活相談や就労支援、炊き出しなど、多くの活動が現場レベルで展開されている。

例:認定NPO法人ビッグイシュー基金

  • ホームレスの人々に雑誌販売という形で仕事を提供
  • 支援対象者の4割が氷河期世代(50代前後)
  • 居場所づくりや金銭管理の支援も実施

ただし、こうした団体にも限界はある。

  • 資金難(寄付頼みで安定しない)
  • 人手不足
  • 行政との連携不足
  • 支援対象が増加する一方で対応が追いつかない

民間に任せきりにせず、官民一体で取り組む体制の強化が必要不可欠だ。


📢 なぜ私たちは“見て見ぬふり”をしてしまうのか?

電車に乗れば、疲れた顔の中年男性。
コンビニの深夜シフトに入る、無言の中年女性。
でも、私たちは「本人の努力が足りなかったのだろう」と片付けてしまいがちだ。

なぜか?

  • 自分とは関係のない“他人事”と感じている
  • 努力を信奉する文化が根強い
  • メディア報道が少ない
  • 「支援を受ける人=だらしない人」という偏見

しかし、就職氷河期は時代が彼らをそうせざるを得なかった現実でもある。
そして、社会の歪みを放置すれば、いつか私たち自身がその影響を受けるかもしれない。


🌱 氷河期世代を見捨てない社会へ向けて

この問題を解決するには、一時的な支援や“感情的な同情”では不十分だ。構造的な対応と、社会全体の意識改革が求められる

提案されるべき方策

  • 対象年齢制限のない職業訓練制度の整備
  • 家賃補助や生活補助など中長期的支援の強化
  • 社会福祉士やキャリアコンサルタントの増員と常設化
  • メディアでの継続的な問題提起
  • 当事者の声を反映した政策設計

また、私たち一人ひとりがこの問題を**“社会の課題”として認識すること**が、何よりのスタートになる。


🔚 おわりに:この問題を「誰かのこと」にしないために

鈴木さんのような人々は、あなたの隣にもいるかもしれない。
苦しくても声を上げられない人々。
支援制度にたどりつけない人々。
「もう頑張れない」とつぶやく50代。

そうした人々を「見えない存在」にしないこと。
それが、これからの日本社会に求められる**“成熟”**なのではないだろうか。

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